米大手資産運用会社フィデリティ・インベストメンツは2日、ビットコイン、イーサリアム、ライトコインの暗号資産(仮想通貨)取引が可能な個人退職金口座(IRA)の提供を開始した。
運用資産約6兆ドル(約876兆円)を誇る世界最大級の資産運用会社による今回の決定は、従来の投資ポートフォリオにデジタル資産を統合する退職金貯蓄業界の大きな転換点となる。
3種類の仮想通貨対応IRAを提供
フィデリティが提供する仮想通貨対応IRAは、退職後の引き出しが非課税となる「ロスIRA」、税金繰り延べ効果のある「トラディショナルIRA」、既存の企業年金からの資金移行が可能な「ロールオーバーIRA」の3種類。
同社によると、これらの口座の開設や維持に手数料は発生しないが、売買取引時には1%のスプレッドが適用される。
この新サービスは18歳以上の米国市民を対象に、フィデリティ・デジタル・アセットがサポートする州で利用可能となっている。
顧客ニーズと戦略的拡大を背景に
フィデリティの今回の動きには複数の要因が影響している。まず、顧客から仮想通貨を税制優遇のある形で保有したいというニーズが高まっていた。
また、同社のデジタル資産への拡大は、変化する顧客ニーズに応えるという広範な戦略とも一致している。
フィデリティはこれまでも仮想通貨取引所への出資やビットコイン(BTC)、イーサリアム(ETH)のETF(上場投資信託)の立ち上げなど、仮想通貨市場への関与を強めてきた。
ビットコイン、イーサリアム、ライトコインという確立されたデジタル資産を選択したことは、市場規模と流動性を重視する同社の慎重なアプローチを反映している。
セキュリティ対策と市場への影響
セキュリティ面では、フィデリティはハッキングやサイバー攻撃からの保護を強化するため、コールドストレージ技術を採用して仮想通貨をインターネットから切り離して保管する。
市場専門家は、フィデリティのような大手機関による仮想通貨の採用が、仮想通貨市場への大量の資本流入を促し、採用拡大や価格上昇につながる可能性があると指摘。
さらにフィデリティは、ステーブルコインや米国債のトークン化など、他の仮想通貨関連プロジェクトも模索しており、デジタル資産へのさらなる取り組みを示唆している。
伝統的金融機関がデジタル資産を受け入れる動きが加速する中、退職金市場への仮想通貨の統合は新たな投資機会を提供することになるだろう。