アメリカのIT大手企業IBMは2029年を目標に、耐故障性を備えた量子コンピュータStarlingの導入を進めている。
この計画により、ビットコイン(BTC)の暗号技術に対する潜在的リスクが、当初の予測より早まる可能性が浮上している。
従来、量子コンピュータがビットコインのセキュリティに本格的な影響を及ぼすのはまだ先と考えられていた。しかしIBMの計画により、その時期が前倒しされる懸念が出てきた。
量子コンピュータは、複数の計算を同時に行う能力を持つ一方で、高いエラー率が最大の課題とされている。ビットコインの暗号アルゴリズムを解読するためには、膨大で複雑な計算処理が求められるため、エラーの訂正機能や耐故障性の技術が不可欠だ。
IBMの挑戦:Starlingが切り拓く未来
IBMは新たなシステムQuantum Starlingを発表した。このシステムは、200個の誤り訂正量子ビットを活用し、1億回以上の量子演算を安定的に実行できるよう設計されている。設置場所は、ニューヨーク州ポキプシーにあるIBMの量子データセンターだ。
このプロジェクトは、2033年までを見据えたスケーラブルな量子コンピューティングのロードマップの一環であり、IBMはこれまでのマイルストーンを順調にクリアしてきたと強調している。さらに、2033年以降の技術展開についても明確なビジョンを提示している。
IBMが特に注力しているのは、量子コンピュータの最大の課題である「エラー訂正技術」の進化だ。量子ビットは、外部環境のわずかな変動によっても破壊されやすいという性質を持つ。こうした課題に対処するため、「二変数バイシクル符号」と呼ばれる手法を導入することで、必要な物理量子ビットの数を最大90%削減するという革新的な成果を目指している。
USCのIBM量子イノベーションセンター所属のローザ・ディ・フェリーチェ氏は、「新しいプロセッサの高い接続性は、効率的な量子エラー訂正コードの実装に大きく貢献する」と述べた。また、これによって量子化学や新薬開発などの分野においても、かつてないブレイクスルーが期待されるとしている。
詳細なロードマップとビットコインへの影響
IBMは2025年に120量子ビット搭載のNighthawkプロセッサをリリースし、2026年にはKookaburraによる初のモジュール型プロセッサを目指す。最終的には、2029年に耐故障性を備えた量子コンピュータ「Starling」の本格導入を計画している。
この進展が注目される理由は、量子コンピュータによる脅威が暗号資産に波及する可能性があるためである。Strategy共同創業者のマイケル・セイラー氏は、銀行や政府システムのセキュリティが相対的に脆弱であることを指摘し、ビットコインより先に危険に晒される見方を示している。
一方、ニュージャージー工科大学のデビッド・ベイダー教授などの専門家は、耐故障性が実用的な量子コンピューティングの鍵であると指摘。彼らは、現行の暗号システムに対する潜在的脅威として捉えている。
ベイダー教授は、ビットコインなどの暗号資産(仮想通貨)を保護するアルゴリズムが脅威に晒される可能性を認めた。その上で「ショアのアルゴリズムを実行可能な強力な量子コンピュータの実用化はまだ先だ」と述べた。
ブロックチェーンが2029年に突然機能不全に陥る可能性は低いものの、注目すべき動向である。なお、この脅威はビットコインに留まらず、多くのアルトコインにも影響するため、業界全体での対策が求められる。