暗号資産(仮想通貨)取引所のBinance(バイナンス)はこのほど、FTXの破産管財人が米国デラウェア州の裁判所に起こした17億6000万ドルの損害賠償訴訟について、訴訟の棄却を申請した。
管轄権を巡る主張と訴訟の背景
バイナンスと前CEOのチャンポン・ジャオ氏は、FTX破産管財人が主張する「2021年7月の株式買戻し取引が顧客資産で違法に行われ、これが後のFTX崩壊につながった」との訴えに対し、全面的に反論している。
バイナンス側は、問題となっている取引は香港法に基づくものであり、関係者もケイマン諸島やアイルランドに拠点を持つ非米国籍企業であることから、「米国の裁判所には管轄権がない」としている。
また、FTX破産管財人が指摘する「取引当時すでにFTXが債務超過だった」との主張についても、事実に基づく証拠がないと反論。さらに「FTX崩壊の原因は社内不正であって、外部要因ではない」と強調した。
悪意主張への反論とサム・バンクマン=フリード氏の責任
FTX側は、ジャオ氏のSNS投稿がFTXの信用不安を煽り、ミームコインであるFTTの暴落を招いたと主張している。
これに対しバイナンス側は、「投稿は自社の利益を守るための正当な情報発信であり、根拠のない憶測だ」と一蹴した。
訴訟資料では、FTXの元CEOサム・バンクマン=フリード氏の刑事責任と「組織的な不正行為」についても繰り返し指摘し、FTX崩壊の真因が経営陣の不正にあったことを強調している。
さらに、バイナンス側は「破産法上のセーフハーバー(免責)条項によって、証券取引は保護される」として、今回の資産移転が同条項の対象だと主張した。
仮想通貨業界への波及と今後の焦点
この訴訟は、米国裁判所の管轄権やFTXの財務状況など、仮想通貨業界における破産・責任追及のあり方に影響を与える可能性がある。
バイナンスが主張するように管轄権が認められなければ、同社の賠償責任も大きく後退する見通しだ。一方、FTX側が主張を認められれば、今後の仮想通貨取引所の倒産時に資産回収の戦略が変化する可能性がある。
仮想通貨投資を行うユーザーにとっても、判決内容は注目すべきポイントとなるだろう。裁判の行方は今後の業界動向にも注目を集めそうだ。